上唇小帯付着異常とは?その原因・症状・治療法を解説
歯科では歯という硬組織だけでなく、口腔内にあるさまざまな軟組織に生じる疾患も治療対象としています。
そして、口腔内にある軟組織疾患のひとつに上唇小帯付着異常があります。
上唇小帯付着異常とは、一体どのような疾患なのでしょうか。
この記事では、上唇小帯付着異常の原因や症状、治療法などを解説します。
この記事を読むことで、上唇小帯付着異常と診断された場合の治療の選択肢や最新治療などが理解でき、下記のような疑問や悩みが解決します。
この記事でわかる事
- 上唇小帯付着異常とは
- 上唇小帯付着異常の原因や症状
- 上唇小帯付着異常の問題点
- 上唇小帯付着異常には、どのような治療法があるのか?
- 上唇小帯付着異常のレーザー治療には、どのような利点があるのか?
目次
上唇小帯付着異常とは
上唇小帯は口腔前庭に存在する小帯のひとつで、上口唇から上顎前歯部正中付近に伸びるヒダ状の組織です。
出生直後は、上口唇から歯槽頂付近にまで及んでいますが、成長とともに付着位置が上方に移動します。ところが、中には付着位置の移動量が少ないものがあり、歯槽頂付近にとどまっているケースがあります。その状態を上唇小帯付着異常と呼んでいます。
上唇小帯付着異常の原因
上唇小帯付着異常は大多数が先天奇形として認められることから、その原因は先天的なものと考えられています。
上唇小帯付着異常の症状
上唇小帯付着異常自体には、疼痛や腫脹などの炎症所見はありません。
上唇小帯付着異常では正常な状態と異なり、上唇小帯の付着位置が高位になっていたり、小帯が肥大し太く大きくなっていたりします。
外傷時の対応
上唇小帯は転倒し顔面打撲した際に、裂創を生じることが多いです。
上唇小帯には重要血管が存在しないことから外傷時の出血量は少なく、多くの場合は縫合せずに経過観察となります。
上唇小帯付着異常の問題点
上唇小帯付着異常によって引き起こされる問題点について説明します。
正中離開
まず挙げられるのが、上顎前歯部の正中離開という不正咬合です。
通常、上顎中切歯は遠心に傾斜しつつ萌出しますが、側切歯の萌出に伴い近心方向に圧排され、中切歯間の間隙は消失します。ところが、中切歯間に上唇小帯が介在していると、側切歯が中切歯を近心に向かって押しても、中切歯間の間隙が消失できないため、正中離開となってしまいます。
正中離開は上唇小帯が肥大し、かつ高位付着している場合に起こりやすいです。
ブラッシング不良
上唇小帯付着異常、特に高位付着の場合、小帯がブラッシングの障害となるため磨き残しを生じやすく、齲蝕症や歯肉炎の原因となりやすいです。
上唇小帯付着異常を認める乳幼児では、上唇小帯に歯ブラシが当たることがあり、疼痛や違和感から仕上げ歯磨きを嫌がることもあります。
発音障害
上唇小帯付着異常は、発音にも悪影響が出ます。特に出やすいのが、ラ行やサ行の発音です。
義歯の製作障害
歯を欠損すると歯槽骨が吸収されて歯槽頂の高さが低くなりますが、小帯の付着位置はあまり変わりません。このため、もともと低位付着であっても、小帯の付着位置が相対的に歯槽頂付近となってしまい、義歯の床縁の設計が難しくなります。
上唇小帯付着異常の治療法
上唇小帯付着異常の治療法は、次に挙げる3種類です。
上唇小帯切離術
上唇小帯切離術は、乳幼児の上唇小帯付着異常に対して行われる治療法で、上唇小帯の形態を整えます。
適応症
口腔前庭が比較的深いうえ、上唇小帯自体の肥厚が認められない乳幼児の上唇小帯付着異常に適応があります。
症状によっては、乳歯の萌出前1歳に満たない年齢で処置することもあります。
術式
- 局所麻酔
上唇小帯に浸潤麻酔を行います。 - 切開
上唇小帯の最も深いところに数㎜の水平切開を加えます。 - 切離
小帯を切離し、創面を菱形に形成します。 - 縫合
5-0ほどの細い縫合糸を使って菱形の左右を合わせて閉創します。
上唇小帯切除術
上唇小帯切除術は、上顎中切歯が萌出した後の上唇小帯付着異常に行われる治療法で、肥大した上唇小帯を切除して短縮します。
適応症
上顎中切歯の正中離開が認められるほど肥大した、上唇小帯付着異常に適応があります。
多くの場合、上唇小帯が中切歯の歯間乳頭あたりから、上唇粘膜に広く付着しています。
通常、正中離開は9〜10歳ごろに消失します。
手術時期については、正中離開の残存が確認できる10歳後半以降に行うのが望ましいとされています。
上唇小帯切除はいつまでにするのがいいの?最適なタイミングについて解説
術式
- 局所麻酔
上唇小帯に浸潤麻酔を行います。 - 切開
歯間部分にまで及んでいる上唇小帯を骨膜上から切開し、剥離します。 - 切除
剥離した上唇小帯をペアン鉗子で固定して切除します。 - 縫合
上唇小帯を切除した部分の創面の形状は菱形になります。菱形の創縁を合わせて5-0ほどの細い縫合糸で縫合して閉創します。
上唇小帯延長術
上唇小帯延長術は、上唇小帯付着異常により義歯の製作に悪影響がある場合に行われる治療法です。
一般的に用いられることが多いのが、Z-plastyという術式です。
適応症
上唇小帯の緊張が強く、義歯の装着や安定に悪影響が出ているケースです。
術式
- 局所麻酔
上唇小帯に浸潤麻酔を行います。 - 切開
上唇小帯の中央部分に縦切開を行います。縦切開の上端部分から斜め45度くらいの角度で縦切開と同じ長さの斜切開を加えます。下端には、反対方向へ同様の斜切開を行います。これでZ字の切開が仕上がります。 - 弁の入れ替え
切開した上唇小帯を剥離し、弁を入れ替えます。 - 縫合
入れ替えた創面を5-0ほどの細い縫合糸で縫合して閉じます。縫合は、鋭角部から行います。
上唇小帯付着異常の最新治療法
上唇小帯付着異常の最新治療として注目されているのが、レーザーを使った治療法です。
レーザー治療とは
上唇小帯付着異常のレーザー治療とは、メスの代わりにレーザーを使った上唇小帯術です。
主に炭酸ガスレーザーやEr.YAGレーザーなどが使われます。
レーザー治療のメリット
レーザーでの上唇小帯切除術には、次に挙げるような数多くのメリットがあります。
止血能に優れる
レーザー治療では、術後の出血のリスクがほとんどありません。
創閉鎖が必要ない
切除後、創部の閉鎖が必ずしも要求されるわけではないので、縫合が省略できます。
熱侵襲が少ない
レーザー治療では、周囲組織へのレーザー照射に伴う熱侵襲が少ないので、術後の瘢痕形成が少なく抑えられます。
創傷治癒が良好
熱侵襲が少ない、術後感染を起こしにくいなどにより、レーザー切除術後の治癒は一般的に良好な経過をたどります。
治療時間が短い
レーザー治療の照射時間は数十秒間ですので、短時間での治療となります。
レーザーによる上唇小帯切除術の術式
①浸潤麻酔
上唇小帯に1.0ml程度の浸潤麻酔をしますが、麻酔は必ずしも必要とするものではなく、無麻酔でできることも多いです。
②レーザー照射
上唇を指で把持し、上唇小帯を牽引します。そして、レーザーを数十秒間照射し、上唇小帯を切除します。
③術後処方
術後は、感染予防のために抗菌薬と消炎鎮痛薬を処方します。
【まとめ】上唇小帯付着異常とは?その原因・症状・治療法を解説
上唇小帯付着異常の原因や症状、治療法などについて解説しました。
この記事では、下記のようなことがご理解いただけたのではないでしょうか。
この記事の要約
- 上唇小帯付着異常には、疼痛などの炎症所見は認めない
- 上唇小帯付着異常は正中離開やブラッシング不良、義歯の製作障害などの原因となる
- 上唇小帯付着異常の治療法は、切離術、切除術、延長術の3種類
- 上唇小帯付着異常の治療には適切な治療時期がある
- 最新のレーザー治療は、低侵襲で出血量も少なく、治療時間も短い、優れた治療法
上唇小帯付着異常は、さまざまな症状の原因となります。たとえ、疼痛や腫脹などの炎症所見を認めなくても、付着位置や形状に異常があれば適切な治療を受けることが推奨されます。
上唇小帯付着異常には治療法の選択だけでなく、治療時期の見極めも重要なので、治療の技術だけでなく、十分な専門知識や治療経験も要求されます。
南青山パーソン歯科では、レーザーによる上唇小帯切除術を行っております。上唇小帯付着異常で不安やお悩みのある方は、当院にご相談ください。専門の歯科医師が、丁寧に対応させていただきます。