上唇小帯切除はいつまでにするのがいいの?最適なタイミングについて解説
人体は緻密に計算された構造をしていますが、時に過不足があってなんらかのトラブルを引き起こす原因となることがあります。
上唇小帯という上唇から延びる小さなヒダは通常、上の歯茎の途中まで付着しています。しかし、前歯の根元まで厚くしっかりと入り込んでいる場合、上唇の動きを阻害したり歯並びが悪くなったり、さまざまな悪影響を与える可能性があることがわかっています。このような状態を上唇小帯付着異常といいます。
「笑うと上唇がひきつってしまう」「前歯がすきっ歯で気になっている」といったケースでは、上唇小帯付着異常が疑われます。そこで、上唇小帯の付着異常を改善するために行われるのが上唇小帯切除術です。
この記事では、上唇小帯切除術の概要や手術について解説します。
この記事を読むことで、上唇小帯切除術が必要となる理由や手術の詳細が理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
この記事でわかる事
- 上唇小帯付着異常ってなに?
- 上唇小帯切除術が必要になるのはどんなとき?
- 上唇小帯切除術は何歳くらいに受ければいいの?
- 上唇小帯切除術ってどんな手術?経過は?
- 費用はどれくらいかかるの?
- もし放置したらどうなる?
- 上唇小帯切除術を回避できることもあるの?
目次
原因となる上唇小帯の付着異常とは
上唇小帯とは、上唇の中心にあり歯肉に向かって伸びているヒダのことをいいます。このヒダは、主に上唇の開閉や動きをスムーズにしたり、コントロールする働きをもっています。
しかし、小帯が非常に厚く幅が広い状態や歯肉の先端に到達するほど高い位置にある状態は付着異常とされます。
しばしば小さい子供にみられ、通常は成長とともに後退して適切な位置に治まりますが、後退が不十分なまま成長すると何らかの障害の原因となります。
1歳半検診や3歳児検診などの歯科検診や、矯正治療の相談時などに指摘されることが一般的です。また、大人になってはじめて気づくケースや、歯周病などで歯を失った人が義歯の新製をする際に邪魔になるケースもあります。
上唇小帯切除術が必要な理由
上唇小帯の異常が原因で障害が起こる場合、小帯の位置を適正にするための上唇小帯切除術が必要となることがあります。そこで、上唇小帯切除術が必要になる理由を具体的に説明していきます。
歯並びへの影響
上唇小帯付着異常で問題とされるケースの中で、最も多いのが正中離開です。
これは、「すきっ歯」とも呼ばれる歯列不正のひとつで、上顎の中切歯(真ん中の前歯)の間に隙間が開いた状態をいいます。
上唇小帯が正中に入り込むことで、前歯が中心に寄って隙間が閉じるのを邪魔しているために起こります。
歯磨きへの影響
子供の口腔ケアは親御さんの仕上げ磨きが重要ですが、その際上唇小帯が邪魔になりきちんと磨けないことがあります。
例えば、歯ブラシが小帯に当たって痛みを感じるために嫌がったり、小帯が歯頚部(歯と歯肉の境目)に覆いかぶさり、汚れが残りやすかったりするためです。歯磨きがしっかりできないことで、虫歯や歯肉の炎症を起こしやすくなります。
発音への影響
上唇の動きが制限されることや正中離開などもみられると、一部の発音がうまくできないことがあります。
このような構音障害があると、会話や学習時に問題が生じることがありますので早期対応が大切です。また、発音の異常によって上唇小帯付着異常に気付くこともあります。
上顎の成長への影響
上唇を動かすたびに強く引っ張られることで、上顎の骨の成長を抑制することがあります。
骨の発達がうまくいかない場合、前歯だけでなく他の歯も正しい位置に萌出できず、噛み合わせも悪くなるリスクが高まるとされています。
上唇小帯切除術に適した年齢
上唇小帯付着異常は、1歳6ヶ月歯科検診などで指摘されることが多いようです。ただし、成長とともに正常な位置になることも多いため、すぐに手術を勧めることはほとんどありません。
手術に適した年齢としては、個人差もあり一概に何歳ごろとはいえないものの、概ね6~7歳くらいの永久歯の前歯が萌出してきたころに手術の必要性を検討するのが一般的ですが、予防的にそれより早い時期に行うこともあります。
ちょうど小学生になるくらいの年齢なので、本人にもきちんと説明して理解を促すことが大切でしょう。
上唇小帯切除術の方法と手術後の経過
上唇小帯切除術では、一般的なメスを使う従来の方法とレーザーメスを使う方法がありますが、当院では安全性が高く負担の少ないレーザーメスを採用しています。
一般的なメスを使った手術では、麻酔や止血・縫合までの時間は数分ですが術後の痛みや1週間後の抜糸などデメリットもあり、子供さんにとっては「いつまで痛いの?」と負担に感じることもあるでしょう。
炭酸ガスレーザーに代表されるレーザーメスを使った上唇小帯切除術の場合は、手術時間が大幅に短縮され、麻酔や縫合も不要になる場合もあり、患者さんの負担が最小限ですむのが大きなメリットです。また、切開創が早期に塞がり出血や痛みも少ないケースも多いといいます。
上唇小帯切除術の費用
上唇小帯切除術は保険診療で受けることができます。レーザーメスを使用した手術の場合、3割負担で3500円程度です。どちらも検査費用や処方料などは別途必要となります。
上唇小帯の付着異常を放置した場合
上唇小帯付着異常を放置していると、いつまでも正中離開などの歯列不正が残るため、審美的なストレスや「さ行」などの発音がうまくできないといったトラブルが起こり得ます。
見た目のコンプレックスにより、人前で笑顔になれないと悩む人やコミュニケーションを伴う仕事、人間関係に影響を及ぼすこともあるでしょう。また、口腔ケアが適切に行えず、歯肉炎や歯周病、虫歯などに罹患するリスクも高まります。
上唇小帯付着異常を大人まで放置するデメリットと大人になってからの上唇小帯切除について
上唇小帯切除術を回避できるケースもある
そもそも上唇小帯は、歯のない乳児期には歯肉の先端近くまで付着していることが多いものですが、体の成長とともに自然に後退していくのが一般的です。
また、成長するにつれて動きが活発になると、ぶつけたり転んだりとさまざまな要因で突発的に切れてしまうこともありますが、通常は問題なく自然治癒します。中には気づかないうちに切れていた、というケースもあるくらいです。
【まとめ】上唇小帯切除はいつまでにするのがいいの?最適なタイミングについて解説
上唇小帯切除術の概要や手術について解説しました。
この記事では、下記のようなことが理解できたのではないでしょうか。
この記事の要約
- 上唇小帯付着異常は前歯の隙間まで過剰に付着している状態で、主に子供にみられ、自然に治ることもあるが1歳半や3歳児検診などで指摘されることが多い
- ・上唇小帯切除術が必要な理由には以下のものが挙げられる
・正中離開(すきっ歯)になることがある
・上唇小帯が邪魔をして口腔ケアが困難になることがある
・構音障害が起こることがある
・上顎骨の成長を阻害することがある - 上唇小帯切除術は、概ね永久歯の前歯が萌出する6~7歳くらいを目安に受けるのが一般的
- 上唇小帯切除術は、一般的なメスを使う従来の方法とレーザーを使う方法があり、レーザーは手術時間や治癒までの経過の負担が少ないというメリットがある
- レーザーによる上唇小帯切除術は保険が適用され、費用は3,500円程度と検査や処方料が必要
- 上唇小帯付着異常を放置すると、歯列不正がコンプレックスになったり、発音障害などによる社会生活への影響が出ることがある
- 通常は成長とともに自然に小帯の位置が後退したり、突発的な怪我などで切れたりして自然治癒すれば手術は回避できる
上唇小帯切除術は、上唇小帯付着異常を認め必要と判断された場合に行われる手術で、当院では負担の少ないレーザーを使った方法を採用しています。
特に子どもの場合、外観的な問題だけでなく、麻酔や痛みなどによって歯科に対する恐怖心を持たないよう配慮が必要です。そのためには、親御さんをはじめ、周囲にいる大人が正しい知識を持って対応してあげることが大切です。
また、負担の少ないレーザーによる手術は、子どもの不安を最小限にすることができる一つの選択肢といえそうです。
手術のタイミングは、最終的に本人の状況によって決定されます。通常はある程度理解のできる年齢になっていますので、主治医と本人との信頼関係にも留意しながら、きちんと納得して行うことも重要なポイントといえるでしょう。