親知らずは生え方で抜歯の難易度が変わる?抜くタイミングについても解説

親知らず、すなわち第三大臼歯の抜歯は、その難易度は比較的軽いものから熟練の歯科口腔外科医にとっても困難なものまで実に多様です。
それは親知らずの抜歯が口腔粘膜や筋肉、骨を含む複雑な手術だからです。
この記事では、親知らずの抜歯の難易度について解説します。
この記事を読むことで、親知らずの抜歯の難易度の差や抜歯のタイミングが理解でき、下記のような疑問や悩みが解決します。
この記事でわかる事
- どのような親知らずの抜歯が難しいのか
- 親知らずの中で最も難易度が高い抜歯とは
- 親知らずを抜歯するタイミングはいつが最適か
- 抜歯した方がいいのはどのような親知らずなのか
目次
親知らずの抜歯の難易度を左右する要素
親知らずの抜歯の難易度を左右する要素は、親知らずだけでなく近接組織にもあり、たいへん複雑です。
親知らずの状態
親知らずの状態とは、生え方や位置、親知らずの形状です。
傾斜度
親知らずの傾斜度は、“垂直位” “近心傾斜” “水平位” “遠心傾斜” “逆性埋伏” “頬舌傾斜”の6種類に分類できます。傾斜度によって親知らずの抜歯の難易度は変わります。
比較的抜歯が容易なのは、“垂直位” “近心傾斜”です。“水平位”は中程度、“逆性埋伏” “頬舌傾斜”の難度は大変高いです。
歯根の形態
歯根の形態は数や湾曲度、太さなどを指します。
歯根が複数根より単根の方が抜歯は簡単ですし、複数根でもそれぞれの歯根が平行かそうでないかによって抜歯の難易度は上がります。また、歯根が湾曲していると、脱臼できたとしても摘出に難渋することがあります。
歯根の太さについては、太いほど難易度が上がります。
深度
親知らずの位置が深い場合、骨削除や歯根の分割などが必要となるため、難易度が上がります。
深度と難易度については、第二大臼歯の歯頚部を基準とし、
Position A:歯頚部より高い
Position B:歯頚部と同じくらい
Position C:歯頚部より低い
難易度は深くなるにつれ増し、PositionCが最も高くなります。
歯根の鮮明度
レントゲン写真上、親知らずの歯根と歯槽骨の境界が不明瞭な場合、歯根と歯槽骨が癒着を起こしている可能性が高くなります。
歯根が癒着している場合、歯根の脱臼が困難となり、周囲の歯槽骨や歯根の削除が必要となるため、抜歯の難易度が上がります。また、歯槽骨の削除により出血量が増えると、視野が狭められるので、やはり難しくなります。
隣接歯との関係
隣接歯とは、主に親知らずの前方にある第二大臼歯を指しますが、ごく稀に親知らずの後ろに第四大臼歯とも呼べる過剰歯が存在することもあります。
第二大臼歯の傾斜度
隣接歯である第二大臼歯の傾斜度は、意外と重要です。
第二大臼歯が近心傾斜している場合は、親知らずの抜歯は比較的容易です。一方、遠心傾斜している場合は、第二大臼歯の遠心面が下方へ傾斜するため、親知らずの歯冠の除去が困難となり、抜歯の難易度を高めます。
周囲組織との関係
親知らずの周囲組織は神経や脈管系のほか、下顎骨の形状も含まれます。
下顎枝との位置関係
下顎枝は、下顎骨の奥歯より後方で垂直になっている部分です。この下顎枝の立ち上がり位置も、親知らずの抜歯の難易度に関係しています。
立ち上がり位置については、第二大臼歯の遠心から下顎枝前縁までの距離に基づいたclass分類があります。
ClassⅠ:親知らずの歯冠の幅より広い
ClassⅡ:親知らずの歯冠の幅より狭い
ClassⅢ:親知らずの歯冠がほとんど下顎枝に含まれている
ClassⅠ、Ⅱ、Ⅲの順で抜歯の難易度が高まります。
下顎管との位置関係
下顎管は下歯槽神経や下歯槽動脈、下歯槽静脈が走行している管です。下顎管に親知らずの根尖が近接していればしているほど、下歯槽神経を損傷する可能性が高まります。抜歯の難易度では、下顎管と親知らずが接して平行している場合に難易度が高くなります。
なお、最も難易度が高いのが下顎管の下方に親知らずが埋伏しているケースで、この場合は全身麻酔下に口腔外から摘出します。
最も難易度が高い親知らずの抜歯とは
最も難易度が高い親知らずの抜歯は、次の通りです。
埋伏抜歯
埋伏智歯の最も難易度が高いケースを下顎枝との位置関係(クラス分類)、深度(ポジション)で表してみます。
ClassⅡ、かつPosition C(第二大臼歯遠心から下顎枝までの距離が歯冠幅以下で歯頚部より深い位置にある親知らず)
ClassⅢ、かつPosition B、C(歯冠のほとんどが下顎枝に含まれ、歯頚部程度から下方に位置している親知らず)
深部埋伏抜歯
下顎管より下方に埋伏しており、口腔外からの摘出が必要な親知らずです。
親知らずの抜歯のタイミング
親知らずは症状があればいつでも抜歯できるわけではなく、抜歯に適したタイミングがあります。
急性期の抜歯は禁忌
智歯周囲炎など、親知らずの周囲が炎症を起こしていると、その部位はpHが酸性に傾きます。局所麻酔薬はアルカリ性なので、炎症を起こした部位では麻酔の効果が減弱します。
また、抜歯後の炎症も増すことになるので、急性期の親知らずの抜歯は禁忌です。
抜歯は無症状のときに
急性期の抜歯は前述した通り、禁忌です。
親知らずの周囲歯肉に圧痛がある場合など、炎症症状が認められる場合は、まず消炎処置を行います。消炎を確認したのち、抜歯を行います。
親知らずの抜歯の適否
親知らずだからという理由だけでは、抜歯の適応症になりません。
齲蝕症
親知らずの齲蝕症について、第二大臼歯の遠心面の齲蝕発症率が高くなる傾向が指摘されています。この傾向は、半埋伏や近心傾斜している親知らずに多くみられます。
また、親知らず自体が齲蝕症を発症することも多いのですが、親知らずは正常萌出していることが少なく、通常の齲蝕治療は困難です。このため、第二大臼歯や親知らずが齲蝕症に罹患している場合はもちろん、将来的に第二大臼歯が齲蝕症になるのを予防するためにも、親知らずの生え方によっては抜歯が選ばれます。
智歯周囲炎
智歯周囲炎は、親知らずの炎症です。
智歯周囲炎の罹患率は、25歳までなら16%、25歳以降では32%と25歳を境に増えるという報告があります。また、半埋伏や近心傾斜した親知らずは智歯周囲炎のリスクが高いので、智歯周囲炎を防ぐためにも抜歯することが推奨されています。
第二大臼歯の外部吸収
親知らずと隣接歯の第二大臼歯の歯根が接触している場合、第二大臼歯の親知らずと接触している部位に外部吸収が起こる可能性が高いです。
すでに外部吸収を起こしている場合だけでなく、将来、外部吸収を起こす可能性が高い場合は、親知らずを抜歯することがすすめられます。
矯正治療のため
矯正治療を進めるにあたって、親知らずを抜歯しなければならない場合、親知らずを適切な時期に抜歯します。
【まとめ】親知らずは生え方で抜歯の難易度が変わる?抜くタイミングについても解説
親知らずの抜歯とその難易度について解説しました。
この記事では、下記のようなことがご理解いただけたのではないでしょうか。
この記事の要約
- 親知らずは生え方によって難易度が変わる
- 親知らずの隣接歯(第二大臼歯)の状態に抜歯の難易度が左右される
- 下顎骨の解剖学的構造も抜歯の難易度に影響する
- 急性期の抜歯は禁忌
- 親知らずの抜歯の適応症は齲蝕症、智歯周囲炎、第二大臼歯の外部吸収、矯正治療などである
親知らずの抜歯は、口腔外科領域の手術で必要とされる手技が全て内包されていると言われているほど複雑な抜歯です。生え方もさまざまですし、周囲組織の状態にも影響されます。
親知らずの抜歯についてご質問や不安のある方は、港区の青山一丁目駅、外苑前駅から徒歩3分にある南青山パーソン歯科でご相談ください。