咬筋ボツリヌスによる歯ぎしり・食いしばり・エラ張りの治療

咬筋ボツリヌス治療とは、咬筋にボツリヌストキシンを注射することで、神経筋接合部の神経伝達物質を阻害し、咬筋の収縮を抑制し、その緊張を弛緩させることを目的とした治療法です。

ボツリヌストキシンとは、ボツリヌス菌が産生する神経毒です。
ボツリヌストキシン自体は、毒素の抗原性からA〜G型に分類されますが、咬筋ボツリヌス治療に用いられるのはA型です。
ボツリヌストキシンは粉末状で生理食塩水に溶解して注射していましたが、近年メディトックス社がイノトックスという世界初の液体型ボツリヌストキシン製剤を開発しました。

咬筋とは、頬骨弓の付近から下顎角の外側面に付着する筋で咀嚼筋のひとつです。
咬筋は上下の歯を咬合させると、下顎枝の外側面の皮下に触知することができます。関連して、抗菌の前縁と頬筋の間には頬脂肪体があり、脂肪塊によって満たされています。
病気でやつれたときに頬がこけるのは、ここの脂肪が減少するからです。

咬筋の肥大化とは、咬筋の筋肉組織が過度に発達し、肥大した状態です。咬筋肥大症ともいいます。
咬筋肥大症は、顎関節症やブラキシズムなどが誘因となって生じます。

• ブラキシズム（歯ぎしり・食いしばり）
• 顎関節症
• 咬耗症
• 補綴物の頻繁な脱離や破損
• 楔状欠損症
• 頸肩腕症候群

咬筋ボツリヌス治療を受けると、ブラキシズムや顎関節症、咬耗症などの改善が期待できます。

ブラキシズムは、咀嚼以外のタイミングで上下の歯牙を接触させる口腔習癖のひとつで、一般的には食いしばりや歯ぎしりと呼ばれています。
グランディング、クレンチング、タッピングなどに分類されます。
ブラキシズムは咀嚼筋の閉口筋によって起こるので、咬筋ボツリヌス治療で咬筋の活動を抑制すれば、ブラキシズムの改善にも効果が期待できます。

顎関節症は顎関節部の疼痛や運動時雑音、咀嚼筋疼痛、開口障害などを認める機能障害の一つです。
顎関節症の治療では、顎関節や咀嚼筋の生理的な安定化が重視されますので、咬筋ボツリヌス治療を受けると咬筋を中心とする疼痛や違和感などの症状の軽減が望めます。

咬耗症は、歯牙の切縁や咬合面が咀嚼運動により経年的に摩滅した状態です。その原因は、不正咬合やブラキシズムなどです。
咬筋ボツリヌス治療を受けたからといって、咬耗した部分が復帰するわけではありませんが、ブラキシズムによる咬耗症は進行の抑制に一定の効果が見込めます。

インレーやクラウンなどの補綴物、修復物が脱離する原因はさまざまですが、その一つがブラキシズムです。ブラキシズムによる咬合力の負荷が補綴物や修復物のセメント構造を破壊することで、脱離しやすくなります。
咬筋ボツリヌス治療を受けるとブラキシズムが改善されるため、補綴物や修復物が外れにくくなる効果も期待できます。

楔状欠損症は、歯頚部付近の歯質が部分的に欠損した状態です。不適切なブラッシングのほか、過度な咬合力でも発現すると言われています。
過度な咬合力による楔状欠損症では、咬筋ボツリヌス治療を受けると咬筋の収縮が抑制されるため、楔状欠損症の予防も見込むことができます。

頸肩腕症候群は、頚部から肩、上腕にかけての何らかの症状を認める症候群です。原因として最も多いのは頸椎の変性ですが、咀嚼筋やブラキシズムも原因の一つとされています。
咬筋ボツリヌス治療が頸肩腕症候群を直接的に治療するわけではありませんが、ブラキシズムによるものの場合、一定の効果が期待できます。

1. 示指や中指、薬指などを下顎角（エラの付近に当てる）
2. 奥歯を咬合させる
3. 指先に動く部分を触知したらそれが咬筋です
4. 咬筋を押さえたときに痛みや違和感を感じたら、咬筋が炎症を起こしている可能性があります。
5. 開閉口時に咬筋付近に疼痛や違和感がある場合も同様です。

当院では、咬筋ボツリヌス治療のボツリヌストキシン製剤に性状など、以下に挙げるさまざまな優れた特徴からイノトックスを採用しています。

従来、ボツリヌストキシン製剤は粉末状を呈しており、それを使用前に生理食塩水に溶解して注射剤にしていました。
イノトックスは、世界で初めて開発された液状ボツリヌストキシン製剤なので、開封すればそのまま使用できます。

イノトックスは生理食塩水に溶解する必要がないので、溶解時に薬の濃度の誤差が生じる可能性がありません。
溶解時に起こるかもしれない薬液の汚染も起こりません。

日本国内で広く使用されているアラガン社製ボツリヌストキシンと比べると、イノトックスは薬価が安価です。
そのため、通常の相場より治療費の負担が少なくすみます。

今までのボツリヌストキシンは、薬剤の安定化のためにヒト血清アルブミンや動物由来物質が配合されていました。
安全性の点から現在、ヒト血清アルブミンや動物由来物質は熱発や血圧低下、呼吸困難などの副作用の可能性が指摘されており、できる限り使用しないことが推奨されています。
イノトックスは、いずれも配合されていませんので、副作用が起こる可能性が低いです。

咬筋ボツリヌス治療の効果は、3〜6ヶ月ほどで、徐々に元の状態に戻っていきます。
したがって、施術頻度も3〜6ヶ月おきです。
人によっては、12ヶ月近く効果が持続する方もいらっしゃいますので、その場合は施術頻度も1年に1回程度になります。

イノトックスのボツリヌストキシンの元となるボツリヌス菌の菌株は、世界で広く使われているアラガン社のボツリヌストキシンと同じ菌株です。

イノトックスは、日本国内では医薬品医療機器等法上の承認をまだ受けていませんので、厚生労働省の認可はまだです。アメリカの食品医薬品局の承認も受けていません。
しかし、開発国の韓国食品医薬品安全庁の認可は受けています。また、EUのECマークも受けていますので、医師や歯科医師の裁量で使用されています。

当院での咬筋ボツリヌス治療について、問診から注射後までの一連の流れを説明します。