根管治療とは
歯の内部には一般的に歯の神経として知られている歯髄という組織があり、歯髄がおさまっている歯の内部空間を根管といいます。根管治療とは、この根管に行う治療の総称で、歯の内部組織の治療なので、歯内療法ともよばれいます。
根管治療では、根管内部の細菌感染した歯髄組織や根管壁を消毒、除去し、根管内部の無菌化を図り、根管充填材という詰め物をして密封します。
根管治療の成功率
根管治療の成功率は、抜髄で85%、感染根管治療で80%、再根管治療で56%と報告されています。<参考>日歯内療誌42(1):24〜30, 2021
また、再根管治療の成功率は明確な根尖病巣がなければ98%、ある場合は62%という報告もあります。<参考>日歯保誌58(3):179〜184,2015
統計によって差がありますが、根管治療の回数が増えるにつれて成功率は下がっていきます。
1回目の根管治療の成功率を高く保つことが、大切と言えそうです。
根管治療の症状と治療の必要性
根管治療では、症状によって必要な治療法が変わってきます。
歯がしみる
歯がしみる場合、歯髄炎という歯髄組織の炎症を起こしている可能性が考えられます。
歯髄炎は、歯髄を除去しなくても回復する可能性がある可逆性歯髄炎と、歯髄を除去するほかない不可逆性歯髄炎に分けられます。
可逆性歯髄炎では、歯髄組織に細菌は侵入しておらず、細菌からの刺激で歯髄組織内の毛細血管が拡張しています。痛みもあるかないかくらいでとても軽く、冷たいものが染みる程度です。
不可逆性歯髄炎は可逆性歯髄炎が悪化したもので、歯髄組織内に細菌が侵入しています。
痛みも強くなり、歯髄を除去するほかなくなります。
虫歯から臭いがする
虫歯の穴から腐ったような臭いがする場合、歯髄が壊死し、壊疽を起こしている疑いがあります。
歯髄壊死とは不可逆性歯髄炎を起こした歯髄組織が、侵入した細菌の活動により死んでしまった状態です。歯髄壊疽は、壊死した歯髄組織が腐敗した状態です。
歯髄組織の除去や根管内部の消毒が必要ですが、抗菌薬も処方されることがあります。
噛むと痛い
噛んだとき歯の痛みを感じる場合、根尖性歯周炎を起こしていると考えられます。
根尖性歯周炎は、歯髄壊疽を起こした歯の根尖から細菌が歯の周囲組織に拡散し、そこで膿が溜まった状態で、レントゲン写真を撮影すると根尖に影が見られます。
根尖性歯周炎の治療も歯髄壊死と同じで、歯髄組織の除去と根管の消毒です。炎症症状が強い場合、根管治療と同時に抗菌薬の処方を行います。
歯肉が腫れた
虫歯の歯の周囲の歯肉が腫れてきたときは根尖性歯周炎が悪化し、歯肉膿瘍ができた可能性が高いです。
根尖性歯周炎の治療と同様に根管治療が必要ですが、膿瘍に対し抗菌薬を処方します。膿瘍の状態によっては、切開して膿を出すこともあります。
顔が腫れた
歯肉の腫れだけでなく、顔や顎の下まで腫れてきた場合は、蜂窩織炎という強い炎症状態に発展している可能性が疑われます。顔まで腫れるだけでなく、口が開きにくくなったり、喉が痛くなったりするほか、食事が摂りにくくなることもあります。
根管治療も必要ですが、抗菌薬の点滴が必要になります。症状が強い場合は、入院になることもあります。
顎の先や唇が痺れる
顎の先や唇の間隔が痺れるときは、下顎骨の骨髄炎が疑われます。
抗菌薬の処方で炎症の緩和を図りますが、原因となった歯については根管治療で対応できない場合もあり、その場合は抜歯になる可能性もあります。
当院の根管治療に対する考え方
歯髄はできるだけ温存したほうが歯にとってメリットが大きいという考えのもと、当院では次のような方針で根管治療を進めています。
歯髄保存の判断
当院では、歯髄は極力保存すべきと考えています。
本当に歯髄を除去しなければならないのか、歯髄温存療法で対応できないか、詳しく検査して判断します。
歯根の状態の確認
歯根の形はたいへん複雑なうえ、歯根の数もさまざまです。根管治療の成功率を高めるためには、歯根の状態を詳しく確認することが欠かせません。
根管治療の適応があると判断された場合は、歯根の形態、数、歯髄腔の形態などを詳しく調べます。
歯周病の有無の確認
歯周病になると、歯と歯肉の間の歯周ポケットが深くなります。歯周ポケットがたいへん深い場合、歯周ポケットが根尖病巣につながっていることがあり、根管治療の成功率に大きく影響します。
根管治療に着手しようとしている歯が、歯周病にかかっていないかどうかも詳しく調べます。
歯の保存の可否の判断
“根管治療に着手したはいいけれど、結局抜歯になりました”では、根管治療に使った時間が無駄になってしまいます。
そのようなことがないように、根管治療を始める前に根管治療で治せるのかを十分検討して治療に進みます。
再根管治療の場合の経過の確認
一度、根管治療を受けた歯に根尖病巣などが発生した場合、それまでの治療の経過の把握も大切です。
再根管治療の成功率は決して高いものではありませんが、再根管治療を繰り返すたびに歯の寿命が短くなっていきます。再根管治療を成功させるためにも、それまでの治療の経過を十分に確認するようにしています。
根管治療の種類
根管治療と一言で言っても、実はいくつかの種類に分けられます。
抜髄
抜髄は、細菌感染を起こした歯髄を除去する根管治療です。
歯髄の細胞が生きている状態にある歯に対して行われますので、局所麻酔が必要です。
抜髄では、感染組織を取り除くことで細菌感染の拡大を防ぎます。
感染根管治療
感染根管治療は、歯髄壊死、歯髄壊疽を起こした歯に行われる根管治療です。
歯髄はすでに生活反応を失っているので、麻酔の必要はありません。
感染根管治療では、根管内部の細菌や汚染物、壊死組織を除去することで、根管内部を無菌化します。
生活歯髄切断法
生活歯髄切断は、根部歯髄を残し、冠部歯髄だけ除去する根管治療法です。
根部歯髄に水酸化カルシウム製剤を貼付し、歯髄の温存を図ります。
再根管治療
再根管治療は、根管治療後の歯が再度細菌感染を起こした場合に行われる根管治療です。
細菌が感染した根管充填剤を除去するほかは、処置そのものは感染根管治療とほとんど同じです。
逆根管充填
逆根管充填は、根管治療の最終段階の処置である根管充填を歯冠方向からではなく、根尖方向から行う処置です。
通常、歯根端切除術とセットで行われます。
根管治療の流れ
抜髄を例にすると、一般的な根管治療の流れは次のようになります。
- 1.
局所麻酔
抜髄する歯の周囲歯肉に局所麻酔をします。
表面麻酔ののち、浸潤麻酔の注射を行います。
感染根管治療では、局所麻酔は行われません。 - 2.
髄室開拡と根管口の明示
歯の咬合面から切削を進め、歯髄直上の歯を削り、髄室を開拡します。
歯髄腔が明示されれば、歯髄の除去に進みます。 - 3.
歯髄の除去
まず、冠部歯髄を除去します。続いて、根部歯髄をリーマーやファイルとよばれる手用器具を用いて除去します。
- 4.
根管長の測定
根管内部の歯髄をある程度除去したら、電気的根管長測定器などを用いて根管の長さを図ります。
- 5.
洗浄
次亜塩素酸ナトリウム液などを用いて、根管内を洗浄、消毒します。
- 6.
貼薬
根管内に根管殺菌消毒剤を貼付して、仮封という仮の蓋をします。
処置後、数日間は経過観察します。 - 7.
根管充填
根管内部にガッタパーチャという天然ゴムから作られた充填剤を詰めます。
充填剤を押さえて、根管内部にしっかりと詰めます。ガッタパーチャが根管内部を隙間なく満たしたかどうかをレントゲン写真を撮影して確認し、問題がなければ根管治療は終わりです。
よくある質問
根管治療を受けた歯の寿命は、健全な歯と比べると短くなります。
アメリカのRoot Canal Treatment Survival Analysis in National Dental PBRN Practices(J Dent Res.2022 Oct;101(11):1328-1334)によりますと、根管治療後の歯の生存期間は平均11年でした。また、根管治療を受けた歯の26%が20年以上保っていたそうです。
根管治療を受けた歯の寿命に関する研究はあまりありませんが、この報告によれば10年ほどということになります。
神経が生きている歯の根管治療では、前もって局所麻酔を行いますから、治療中に痛むことはほとんどありません。
そうでない歯は痛みを感じることができないので、治療中の痛みはありません。
“歯根が折れている”“根管内部にまで虫歯が広がっている”“虫歯が歯肉よりも下にまで進んでいる”ような歯の場合です。
治療概要
治療方法 | 根管治療 |
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治療の説明 | 根管治療は、根管という歯の内部空間の治療の総称で、歯を残し長期にわたって歯の機能を維持できるようにします。根管治療には抜髄、感染根管治療、生活歯髄切断法などがあり、抜髄と感染根管治療が主に行われています。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 |
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