顎関節症とは
顎関節症は、顎運動の中心となる顎関節の構造的、もしくは機能的な変化によって引き起こされる病気です。
顎関節症になると、顎関節の痛みや顎を開け閉めする筋肉の痛み、お口の開けにくさなどの症状を認めます。
顎関節の仕組みと正しい動き方
顎関節の動きは、一般的には関節を中心とした下顎の回転で動いているようなイメージがあると思います。確かに、動物の顎関節はその通りです。しかし、人間は進化の過程で立ち上がったため、単なる回転運動でお口を開けようとすると、下顎が首に当たってしまい、大きく開けられません。
そこで、お口を開けるとき、下顎を前に少しスライドさせて首との距離を開けてから回転運動で開けるようになっています。
顎関節症の症状・分類
顎関節症の症状は多様で、一つだけとは限りません。症状が複数組み合わさって現れていることも多いです。
咀嚼筋痛
咀嚼筋は、お口を開け閉めするときに使う筋肉の総称で、開口筋と閉口筋に分けられます。
咀嚼筋痛とは、お口を開けたり、歯を噛み合わせたりしたときに咀嚼筋に生じる痛みです。簡単にいうと、肩こりと同じようにお口の周りの筋肉が筋肉痛を起こしたような状態です。
関節痛
顎関節症の関節痛は、お口を開けたり閉めたりしたときに顎関節に生じる痛みです。
顎関節に負荷がかかり続けることで顎関節が炎症を起こした結果、生じると考えられています。
開口障害
開口障害は、お口が開けづらくなる症状です。
指を縦にして3本入るくらい開くのが理想的なお口の開き幅ですが、それを下回る場合を開口障害が疑われます。
顎関節音
顎関節音は、お口を開け閉めするときに関節部分から生じる音の総称です。関節雑音という言い方をすることもあります。
代表的な顎関節音は、クリック音とクレピタス音の2つです。クリック音は、「ポキッ」「カクッ」というような音です。クレピタス音は、「ジャリジャリ」というような音です。
顎関節症の原因
顎関節症の原因はさまざまです。それらが組み合わさって、顎関節症を引き起こすと考えられています。
歯ぎしりや食いしばり
顎関節症の原因の中で最も多いとされるのが、歯ぎしりや食いしばりなどの噛み合わせの癖です。
歯ぎしりや食いしばりをしていると、顎の筋肉や関節に負担がかかり、それが引き金となって顎関節症を起こします。
片方噛み
食事のときに右もしくは左というように、片側だけで噛む癖も片方の顎の筋肉や関節に負担をかけるので、顎関節症を起こすことがあります。
歯牙接触癖
歯牙接触癖は、無意識に上顎の歯に下顎の歯を当てる癖です。TCHともいいます。
通常、上下の歯は接触しておらず、上下の歯の間には安静時空隙とよばれる数㎜の隙間があります。歯牙接触癖があると、安静時空隙分だけ下顎を上に上げているので、筋肉や関節に負荷がかかり、顎関節症を引き起こすと考えられています。
頬杖
頬杖をつくと、顎関節に左右アンバランスな横方向への負荷がかかります。これにより顎関節症を生じることがあります。
ストレス
ストレスがかかると無意識のうちに歯ぎしりや食いしばりなどを起こしますので、ストレスも顎関節症に関連しています。
スポーツ
スポーツをしている間、食いしばっていると顎関節症を生じます。
楽器の演奏
吹奏楽など、口を使う楽器を使った演奏を行なっている方は、その度に顎関節に負荷がかかります。楽器の演奏も、顎関節症に関与していることがあります。
外傷
転倒などにより下顎を強く打つと、顎関節がダメージを受け、外傷性の顎関節症を起こすことがあります。
顎関節症の治療法
顎関節症の治療法は、病態分類に従って選ばれます。原因が多岐にわたることから、複数の治療法を併用することも多いです。
セルフケア
顎関節症では、顎関節に負荷がかからないようにすることが大切です。
顎関節への負荷となるような行為をしないようにしていただかなくてはなりません。具体的には、上下の歯を当てる癖や歯ぎしりや食いしばり、硬いものを好んで食べること、大きなお口を開けることなどです。
薬物療法
顎関節の痛みに対しては、非ステロイド性消炎鎮痛薬という痛み止めの薬を使います。筋肉の疲れによる症状に対しては筋弛緩薬も使います。
スプリント療法
スプリント療法は、マウスピースを使った治療です。
主に筋肉の安静を図ることを目的としています。マウスピースには、硬いタイプと柔らかいタイプがあり、症状に合わせて使い分けます。いずれのタイプも、上顎もしくは下顎と、片側だけにつけます。
理学療法
理学療法は、筋肉の疲労改善を目的とした治療です。
筋肉の疲労を改善させるには安静を図ることが大切です。そこで、筋肉を温めてほぐす温熱療法の他、マッサージ療法、電気刺激を与える電気療法などが行われます。
顎関節洗浄療法
顎関節の痛みが薬を使っても改善しづらい場合の次の選択肢として行われるのが、顎関節洗浄療法です。関節内部の炎症性物質を生理食塩水などを使って洗い流すことで、痛みの解消を図ります。
徒手的授動術
徒手的授動術は、お口を開けやすくさせる治療です。
歯科医師が下顎を掴み、前下方へローテーションさせることで顎関節の動きを改善させて、お口が開くようにします。
顎関節パンピングマニピュレーション
顎関節パンピングマニピュレーションは、お口を開けやすくすることを目的とした治療です。顎関節の内部空間を拡大し、顎関節を構成する下顎骨のパーツである下顎頭の動きを良くすることで、お口を開けやすくします。
顎関節運動療法
顎関節運動療法は、顎関節の動きを良くすることを目的とした治療です。ご自身で行なっていただくもので、ストレッチ効果によりお口を開けやすくします。
関節可動化訓練、関節円板整位訓練、ストレッチ運動など、症状によりいくつかの種類があります。
外科手術
前述の治療を行なっても顎関節症の症状が改善しない場合は、外科手術も考慮されます。顎関節症の外科手術の方法は、関節鏡下手術、顎関節円板切除術などがあります。
関節鏡下手術では、顎関節の動きを悪くする顎関節内部の癒着組織を電気メスやレーザーで切除します。顎関節円板切除術は、顎関節内部の上顎骨と下顎骨の間にある顎関節円板という組織が癒着し動きが悪くなっている場合に行われる手術で、顎関節円板を切除して動きやすくさせます。いずれも全身麻酔下の手術であり、顔面神経損傷などの合併症のリスクのある手術なので、一般の歯科医院では受けられません。
顎関節症治療の流れ
顎関節症の治療について、どのような流れで進めていくのかを解説します。
- 1.
問診
問診では、どのような症状が気になっているのか、いつからその症状があるのかなど、顎関節症の診断では病歴の把握がとても大切です。
その他、現在治療中、もしくは過去に治療を受けていた病気の有無、薬や食べ物に対するアレルギーの有無もお尋ねします。 - 2.
臨床検査
問診に続いて、検査を行います。
痛みがあるかどうか、痛みがあるならどこが痛むのか、どのように痛むのかチェックします。また、どれくらいお口が開けられるのか、開ける時にどのようにお口が動いているのかも調べます。開け閉めするときに音がするかどうかも確認します。 - 3.
画像検査
パノラマエックス線写真で顎の骨の変化の有無を調べ、シュラーエックス線写真で左右の関節の動きを比較します。なお、パノラマエックス線写真は、顎関節症以外の病気の有無を調べるのにも有用です。
必要に応じてCTを撮影し、関節部分の骨組織の状態を詳しく評価します。関節内部の状態を調べる必要があれば、MRIを撮影することもあります。 - 4.
心理検査
顎関節症は、身体的な原因以外に心理的な原因で起こることもあります。心理的な原因が疑われる場合には心理検査を行い、ストレスの有無、うつの有無などを調べることがあります。
- 5.
診断
検査の結果がそろえば、まず顎関節症かどうかを診断します。顎関節以外の原因で開口障害やお口の開け閉めの際の痛みが出ることもあるので、顎関節症によるものかどうかの診断がまず行われます。
顎関節症であると考えられた場合、顎関節症の病態分類にしたがって顎関節症を診断します。 - 6.
治療
顎関節症の治療は、症状に合わせて選びます。いくつもの症状が合わさっていることが多いので、治療法もひとつとは限りません。
また、治療により症状が変化することで、顎関節症の治療中に治療法が変わることもあります。 - 7.
経過観察
顎関節症の症状が落ち着いた後は経過観察に移ります。顎関節症は再発することも珍しくないからです。
よくある質問
顎関節症の治療は短期間で終わるのは難しいです。早い方で1ヶ月弱、長い方では数ヶ月かかることもあります。
お口が開けられないときや開けると痛いときは、小さなもの、柔らかめのものを中心とした食事をおすすめします。
顎関節症の治療は保険診療の適用を受けています。健康保険証を忘れないようにご来院ください。
顎関節症の方の多くに、歯ぎしりや食いしばりなどの噛み合わせの癖があるようです。右側もしくは左側だけなど、片側だけで噛む癖の方もいらっしゃるようです。
このような癖が原因で顎関節症になった方は、一度、顎関節症が落ち着いても、癖が無くなっていないと顎関節症を再発することがあります。
気づいたら治っているという方もいらっしゃいます。
自然に治るのを待っていても治らない方も多いですし、自然に治るかもと思って様子を見ていると経過が長くなり、かえって悪化して治療期間が長引くこともあります。
自然に治る方は確かにいますが、だからといって放置するのはおすすめできません。
顎関節症治療の治療概要
治療方法 | |
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治療の説明 | 顎関節症は複数の原因が組み合わさっていることが多く、症状も複雑です。このため、顎関節症の治療にあたっては、病態ごとに分類し、症状に合わせた適切な治療法を組み合わせることが多いです。 |
治療の副作用(リスク) |
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術後の制限事項 |
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